職場の熱中症対策義務化とは?経営者が知っておきたい基本ルール
はじめに
「熱中症対策が義務化されたと聞いたけれど、何をすればよいのかわからない」
中小企業の経営者や総務担当者から、このような声が聞かれます。
新しい制度と聞くと、難しい書類や専門的な測定が必要だと思うかもしれません。
しかし、制度の中心にある考え方は難しくありません。
熱中症の疑いがある人を早く見つけ、迷わず対応し、重症化させないことです。
ただし、制度の対象や必要な対応を正しく理解しないと、「一応マニュアルを作ったから大丈夫」と、形式だけの対策になってしまいます。
今日は、職場の熱中症対策義務化について、わかりやすく整理します。
目次
1.義務化の背景
職場で起きる熱中症による労働災害は増加傾向にあります。
厚生労働省によると、2024年に発生した休業4日以上の熱中症による死傷災害は1,195人となり、調査開始以降で最多でした。死亡災害も3年連続で30人以上となっています。
重症化する原因として問題になったのが、初期症状の放置や対応の遅れです。
熱中症は、最初は軽いふらつきや頭痛、吐き気、だるさなどから始まることがあります。
本人が「少し休めば大丈夫」と考え、そのまま作業を続けることもあります。
周囲の人も、「本人が大丈夫と言っているから」と判断してしまうかもしれません。
しかし、その間に症状が急速に悪化することがあります。
そのため、本人の自己判断に任せず、職場として早期発見と早期対応ができる体制を作ることが求められました。
2.対象となる作業
義務化の対象として示されているのは、次の条件に当てはまることが見込まれる作業です。
- WBGTが28度以上、または気温が31度以上の場所
- 連続して1時間以上、または1日4時間を超えて行う作業
WBGTとは、気温だけでなく、湿度、日差し、風なども考えて暑さによる身体への負担を表す指標です。
一般的には「暑さ指数」と呼ばれます。
注意したいのは、天気予報の最高気温だけで判断しないことです。
同じ地域でも、屋根の下、機械の近く、厨房、倉庫の奥など、作業場所によって暑さは異なります。
可能であれば、実際の作業場所で暑さ指数を測りましょう。
また、条件に達していないように見える場合でも、体調不良者が出たときは、数値に関係なく速やかな対応が必要です。
厚生労働省の通達でも、熱中症が疑われる場合には、WBGTや作業時間にかかわらず対応することが重要とされています。
3.事業者に求められる二つの対応
異変をすぐ報告できる体制
一つ目は、熱中症の症状を感じた本人や、異変に気づいた人が、すぐに報告できる体制です。
最低限、次のことを明確にします。
- 誰に報告するか
- どの方法で報告するか
- 責任者が不在の場合は誰が対応するか
- 一人作業の場合はどう連絡するか
掲示板に担当者名を貼るだけではなく、全員が理解している必要があります。
新人、短期雇用者、派遣労働者、スポットワークで働く人にも伝えなければなりません。
厚生労働省のガイドラインでも、短期間働く人を含め、対象となる作業者へ体制や手順を周知する必要があるとされています。
重症化を防ぐ対応手順
二つ目は、熱中症の疑いがある人が出たときの対応手順です。
たとえば、次の流れを決めます。
- すぐに作業を中断する
- 涼しい場所へ移動する
- 衣服を緩めて身体を冷やす
- 意識や受け答えを確認する
- 必要に応じて医療機関や救急へ連絡する
- 一人にしない
- 経過を記録する
搬送先となる医療機関や緊急連絡先も、事前に確認しておきます。
4.周知しただけで終わらせない
マニュアルを配り、「読んでおいてください」と伝えるだけでは、緊急時に動けないことがあります。
人は、体調不良者を目の前にすると慌てます。
責任者が休みの場合もあります。
救急車を呼ぶべきか迷うこともあります。
だからこそ、短時間でも練習しておくことが大切です。
たとえば、朝礼で次のような確認をします。
「Aさんがふらついて、受け答えがおかしい状態です。最初に誰へ連絡しますか」
「責任者が不在なら誰が判断しますか」
「身体を冷やす道具はどこにありますか」
「救急隊が来るまで、誰が付き添いますか」
実際に声に出して確認するだけでも、対応の速さは変わります。
5.小さな会社でもできる運用方法
小規模な会社では、専任の安全衛生担当者を置くことが難しい場合があります。
その場合は、複雑な組織を作る必要はありません。
責任者、代理者、連絡方法、応急対応、搬送先を一枚にまとめるだけでも、最初の仕組みになります。
大切なのは、実際に使えることです。
責任者が社長一人だけになっていると、社長の外出中に対応できません。
電話番号が古ければ連絡できません。
冷却材が奥の倉庫にあれば、すぐに使えません。
作った後に、現場で本当に機能するか確かめましょう。
まとめ+要約
2025年6月1日から、一定の暑熱環境で行われる作業について、熱中症の疑いがある人を報告する体制と、重症化を防ぐ対応手順の整備・周知が義務付けられました。
対象の目安は、WBGT28度以上または気温31度以上で、連続1時間以上または1日4時間を超えることが見込まれる作業です。
ただし、数値だけで安全を判断してはいけません。
異変があれば作業を中断し、冷却や医療機関への連絡を速やかに行う必要があります。
マニュアルを作るだけでなく、責任者が不在の場合も含めて、実際に動ける仕組みにしましょう。
FAQ
Q1.対象にならない職場は何もしなくてもよいですか?
対象条件に当てはまらない場合でも、職場環境や作業内容によって熱中症の危険はあります。事業者には、従業員が安全に働ける環境を整えることが求められるため、必要な予防策を検討しましょう。
Q2.暑さ指数は必ず測らなければなりませんか?
作業場所の危険を正しく把握するためには、暑さ指数計を使った確認が有効です。天気予報の気温だけでは、職場内の暑さを正確に判断できないことがあります。
Q3.一人で作業する従業員にはどう対応すればよいですか?
定時連絡、携帯電話、位置情報、体調確認のルールなどを決め、異変があったときに連絡が途切れない仕組みを作ります。高温環境では、できる限り単独作業を避けることも検討してください。









